レアアース
兄に聞いてみた!ハイテク産業の命綱「レアアース」の正体とは?

【ひより】
ねえ、お兄ちゃん。さっきニュースで「経済安全保障」とか「レアアースの確保が重要」って言ってたんだけど……。
レアアースって、直訳すると「珍しい土」だよね?
それって、公園にある砂場の砂とは何が違うの?
キラキラした宝石みたいなものなのかな。

【智宏】
……ひより、いきなり極端な質問だね。
確かに漢字では「希土類(きどるい)」と書くから、珍しい土というイメージは間違っていないよ。
でも、公園の砂とは構成している成分が全く違うんだ。
レアアースっていうのは、元素周期表にあるスカンジウム、イットリウム、そしてランタノイドと呼ばれる15元素を合わせた、合計17種類の元素の総称のことだよ。

【ひより】
げっ、周期表……。高校の化学を思い出しちゃう。
お兄ちゃんは数学科の院生だからそういうの得意だろうけど、私は「すいへーりーべー」で止まってるんだから、もっと噛み砕いて教えてよ。
結局、それがあると何が嬉しいの?

【智宏】
はは、そうだね。理屈っぽくなりすぎた。
簡単に言うと、レアアースは「工業のビタミン」と呼ばれているんだ。
人間もビタミンが少し足りないだけで体調を崩すだろう?
それと同じで、スマートフォン、電気自動車(EV)、エアコン、風力発電機……。
僕たちの生活に欠かせないハイテク製品を作るには、ほんの少しのレアアースを混ぜる必要があるんだよ。
例えば、強力な磁石を作るための「ネオジム」や、光ファイバーの増幅器に使われる「エルビウム」などがあるね。
なぜ「レア」と呼ばれるのか?

【ひより】
へぇー! スマホの中にも入ってるんだ。
じゃあ、私のスマホがサクサク動くのも、レアアースのおかげなんだね。
でも、そんなに大事なものなら、もっとたくさん掘ればいいのに。
やっぱり、ダイヤモンドみたいに掘るのがすごく大変なの?

【智宏】
実はね、地球の地殻の中に存在する量自体は、そこまで極端に少ないわけじゃないんだ。
「レア」と呼ばれる本当の理由は、「採掘して純度を高める(精錬する)のが非常に難しいから」なんだよ。
特定の場所に固まって存在することが少なくて、他の不純物と混ざり合っていることが多い。
それを取り出すには高度な技術が必要だし、精錬の過程で環境に負荷がかかる有害な物質が出やすいという問題もあるんだ。

【ひより】
なるほど。宝探しみたいに「見つける」のが大変なんじゃなくて、「使える状態にする」のが大変なんだね。
お茶を淹れるのも、茶葉を選んで、温度を測って……って手間をかけるから美味しくなるのと似てる……かな?
……ちょっと違うか。

【智宏】
いや、手間がかかるという点では良い比喩かもしれないね。
でも、この「手間」と「環境負荷」というハードルがあるせいで、現在、世界のレアアース生産の大部分を中国が占めているという現状があるんだ。
これが政治や経済のニュースでよく取り上げられる理由だよ。
レアアースと国際政治の複雑な関係

【ひより】
あ、思い出した!
経済学部の授業でも、特定の国に資源を頼りすぎるのはリスクだって先生が言ってた。
もしその国と仲が悪くなったら、レアアースを送ってもらえなくなっちゃうもんね。

【智宏】
その通り。鋭いね。
実際に2010年頃、尖閣諸島の問題に関連して中国が日本へのレアアース輸出を事実上停滞させたことがあったんだ。
これを「レアアース・ショック」と呼ぶこともある。
日本の製造業は大打撃を受けて、レアアースの価格が跳ね上がった。
特定の国にサプライチェーン(供給網)を依存しすぎることは、外交上のカードを握られているのと同じなんだよ。

【ひより】
うわぁ、それは怖いね……。
私の好きなアニメに出てくる魔法の杖の材料が、敵対する国でしか採れないみたいな絶望感。
日本はどうにかして対策してるの?
ただ困ってるだけじゃないよね?

【智宏】
もちろん、日本も対策を急いでいるよ。
大きく分けて3つの戦略があるんだ。
1つ目は、調達先の多角化。オーストラリアやアメリカなどの鉱山と協力して、中国以外からも買えるようにすること。
2つ目は、リサイクルと代替技術の開発。使い終わった家電からレアアースを取り出したり、そもそもレアアースを使わなくても性能が良いモーターを作ったりする研究だね。
そして3つ目が、自国での資源開発だよ。
日本の海に眠る「希望の泥」

【ひより】
えっ、日本でも採れるの?
日本って資源が全然ない国だって社会科で習った気がするけど……。

【智宏】
地上にはほとんどないんだけどね。
実は、日本の排他的経済水域(EEZ)内にある南鳥島の近くの海底に、膨大な量のレアアースを含んだ「レアアース泥」が眠っていることが分かっているんだ。
その量は、なんと世界中で使われているレアアースの数百年分に相当すると言われている。

【ひより】
数百年分!? すごい!
じゃあ、それを今すぐ掘りに行けば、日本は資源大国になれるじゃない!
なんでお兄ちゃんは、そんな大事なことをもっと早く教えてくれないの。

【智宏】
……そんなに簡単なら、もうやってるよ。
深海6,000メートルという、凄まじい水圧がかかる場所から泥を吸い上げるのは、今の技術でも至難の業なんだ。
コストも見合わないといけないしね。
でも、最近ではその泥を効率よく引き上げる実証実験も進んでいる。
これが成功すれば、日本の経済安全保障は劇的に向上するはずだよ。

【ひより】
深海6,000メートルかぁ……。ファンタジーの世界みたい。
でも、お兄ちゃんが難しい数式を解くみたいに、日本の技術者さんたちが頑張って解決してくれるのを信じるしかないね。
経済学部としても、資源の価格が安定するのは大歓迎だし!

【智宏】
そうだね。レアアースは単なる「石」や「土」ではなく、国の命運を左右する「戦略物資」なんだ。
ひよりが興味を持ってくれたなら、僕が理屈っぽく解説した甲斐もあったというものだよ。

【ひより】
うん、今日は勉強になった! ありがとう、お兄ちゃん。
お礼に、美味しい緑茶を淹れてあげるね。
あ、でもお茶菓子に買っておいた「レア」な高級チョコ、勝手に食べちゃダメだよ?
それは私の「戦略物資」なんだから!

【智宏】
……分かってるよ。そんなに食い意地が張ってるのはひよりだけだ。
さて、僕も研究に戻るかな。お茶、楽しみにしてるよ。
